細野晴臣「はらいそ」
細野晴臣「はらいそ」を真面目に書いてたら、一回に3曲のレビューが限界でした。
なので、3曲ずつ3回に分けてのレビューにしますね。
初めてリリースされたのは、1978年。アナログLP。
それからCDでリリースされましたが、一時はなかなか刷れない状態になり、アナログしか持っていないファンが再発を首長く待っていました。
紙ジャケで出たときは音源が細野氏の意向を全面に出したリマスターをしており、それまでの盤とは違う仕上がりになってました。
根強いファンのなかには、アナログ、CD、リマスタ盤の3つを買ってしまった人も多いそうです。
私の手元にあるはらいそは、紙ジャケ仕様ではなく、リマスタされてもいない普通のCD。。。
- アーティスト: 細野晴臣
- 出版社/メーカー: アルファレコード
- 発売日: 1994/09/28
- メディア: CD
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はらいそは、細野晴臣のトロピカル三部作の最後の作品で、彼はこのアルバムを作成してからYMOを結成しています。
最初に聴いて感じたのは、細野氏は凄まじく耳のいい人なんだな、ということです。
そして、これまたすさまじく色んな音を聞いてきたんだな、ということ。
そうでなくては作れない曲がつまったアルバムです。
細野氏は、ここまでの音楽生活で、これから何を作ったらいいのか迷い葛藤していたらしく、それがこのアルバムにも反映しています。
細野氏が作ったトロピカル三部作の集大成ともいえそうですが、ファンは、「トロピカルダンディ」「泰安洋行」がベストだともいっていて、軍配が分かれてます。
細野氏自身は、「内省的だった」と語っていますね。
ポップスといっても単なる薄っぺらな表層にとどまらず、もう少し深くまで踏み込んでいるので、かなり聞き応えがあります。
アルバムの最初からファンキーな曲が流れたと思ったら、フォークロック、カリプソ(しかもインド人みたいなボーカル)、沖縄民謡、、と、ジャンルに囚われない幅広い歌が。
これを楽しいと思える人には至極の世界ですが、未知の世界に触れて「こわいわー」と怯える人もいるようです。
自分は前者で聴いてる間はずっと幸せでしたケド。
細野さんのベースやメロディが好きな自分には、たまらない1枚です。
1.東京ラッシュ
一曲目は、ガレージファンクみたいに賑やかでリズミカルで明るいです。
言葉遊びがとても楽しいのですが、リズムがあって、その上に言葉を載せる感じで、韻の踏み方も気持ちいいです。
日本語の発音がこう巧くのるなんて。
でも歌詞カードを見ると、「ええ、なんデスカ、これ」というくらい意味が無いです。
日本語を英語の発音で歌うといいのかな、ガスガスガス〜♪
一曲目からホノルルに行ってみたり、逃げて香港まですっ飛びして、すでに日本から逃げたくなっている細野氏の心境がチラホラしますね。
シンセサイザーに坂本龍一、ドラムに林立夫、ピアノに佐藤ひろし氏をお迎え。
細野氏はボーカル、ベース担当です。
ここで味わいたいのがベースです。
細野氏のベースのイメージといえば「地味だけど動き回る」といった感じが自分にはあります。
ブラック・ファンクのベースはシンコベーションやラグタイムなどの技法があるけれど、グルーヴを作りながらメロディにのるのは難しいはずです。
細野氏はいつも簡単に弾いていますが、一般の人にはなかなかこのグルーヴは出せません。
速く弾くという技術は練習すれば、わりと身につきやすいのですが、グルーヴはリズム感と耳と練習量のどれも必要なものだと思います。
と、ベースの話しに熱くなってしまいましたが、細野氏のベース(というかリズムセクション)は全作品を通して聞き応えがあります。
YMOで鍵盤ベースしてたときも勿論です。
2.四面道歌
ギターに鈴木茂をお迎え。
この時代のフォークロックを感じます。
歌詞はワビサビが。
朝になったらぼくは行くよ 西のドアから
蓮の花咲く天竺へ 神に会いに
花も嵐も踏み越え ぼくは行ってくるよ
悲しい言葉を振り切り ぼくは行ってくるよ
一曲目で旅立ちたがっていた細野氏ですが、二曲目ではもうここでは「いってくるよ」。
止めてもどうにも無駄な感じです。
それにしても、蓮の花、天竺、火の鳥、、と、仏教関連の言葉が多いですね。
当時を振り返り、細野氏は仏教を意識した曲だて書いていて納得。
しみじみとした音階での「いってくるよ」は、どこか寂しげで引き止めてほしそうでもあります。
「邪魔だよ そこどけ 悪魔めそこどけ」
仏教的に解釈するなら、悪魔は自分自身の煩悩かもしれません。
この歌はトリビュートでキセルが歌ってますが、彼らお得意のダブ・アンビエントに仕上がっていて、でも四面道歌の持つ空気を壊しておらず「上手いな」と感心しました。
興味があれば是非。
3.ジャパニーズ・ルンバ
これはカバーです。
いきなりインド人が「チョトアノネ」と歌っていると思ったら、ティーブかまやつさんがボーカル(ムッシュかまやつ氏のお兄さんです)。
かまやつさんの発音やブレスの入れ方が独特で、インド人に聞こえてしまう逸品。
あまりに怪しいので、私はこの歌を聴くとどうしても「仕事明けのフィリピーナが化粧も落とさず笑顔で丁寧に歌ってる」姿をイメェジしてしまいます。
タイトル通りのルンバ(カリプソぽくもある)の明るい曲調に、なんだか妙に辿々しい日本語の切なさのミスマッチぶりがお見事です。
この曲に限ったことではないけれど、細野氏が創る作品にはこういった絶妙なアンマッチさが散りばめられている。
ルンバという有機的なリズムに、無機的なボーカルをのせるのは足し算するといいのだろうけど、有機的な声をのせてしまうと受け手はチャンネルを合わせる接点が無くなってしまい、呆然としてしまう。
この独特の質感が、普通のポップスに慣れた人に「危険」を感じさせるのでしょうね。
こういう曲を素直に受け入れられるのは、子供かな。
音に固定観念のない子供は、楽しみ方が上手ですよね。
ルンバといえば細野氏の手中ですね。
シュールだけど、意味を深読みしなくていい、楽しい曲になってます。
これは動画を探せなかった。
3曲終わったから、次は安里屋ユンタからかな。